文化

ジョージ・オーウェルの『 1984年』と全体主義の恐ろしさ

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By Nirwrath (Made in Inkscape 0.48.4.1) via Wikimedia Commons (CC BY-SA 3.0 )

こんにちは、ぱんた( @reipantaCom )です。

ここのところ、情報の一般公開制限、特定国出身者の入国禁止など、太平洋の向こうから驚愕のニュースが続々と届いています。

私は本来小心者なところもあり、子供をもつ親としても、1人の人間としても、現在の世界が向かっている方向に薄気味悪いような怖さを感じています(日本も含めて)。

ということで、ちょっと真面目に立ち止まって考えるためにも、現在ベストセラーに急浮上している小説『 1984年( Nineteen Eighty-Four )』について書きたいと思います。

そこに描かれた全体主義の恐ろしさについて考えながらレビューし、それに類似する世界を描いたほかの小説や映画もご紹介します。

ジョージ・オーウェル作『 1984年』のあらすじ

小説『 1984年( Nineteen Eighty-Four )』は、イギリスの作家ジョージ・オーウェル( George Orwell )が1949年に出版した作品です。和訳のタイトルはいくつかあり、高橋和久の新訳版(そして名訳)は漢数字で『一九八四年』となっています。

舞台は1984年(執筆当時には未来)の超大国オセアニア。そこでは、一党独裁によって個人の思考が徹底的に管理・統制され、人々はユートピアの反対となる全体主義のディストピアに生きています。人間の尊厳が死滅したような恐ろしい世界で、人々は論理的思考ができないような厳しい統制を受け、常に監視され、党という全体のための一部として生きています。

主人公のウィンストン・スミスの仕事は歴史改ざん。指示に従って、党の都合がいいように過去の新聞記事を書き換えています。他の人々と同じく党首ビッグ・ブラザーへの忠誠を取り繕いながら生活していたものの、ウィンストンは党への疑問や不満を募らせ、党のイデオロギーに反対する「犯罪思考( crimethink )」(ママ)を抱くようになります……


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『 1984年』が売れている理由

現在オーウェルの小説が飛ぶように売れている理由は、デジャヴュ。大国で誕生した大統領の政策が、『 1984年』に描かれているウィルソンの生きたディストピアを彷彿とさせるためです。

例えば、主人公ウィンストンの仕事である事実の改ざん。小説の中では、イングソック( INGSOC )と呼ばれる独裁政党や党首ビッグ・ブラザーが絶対的に正しい存在であるために、ウィンストンら記録局の職員は毎日過去の事実を書き換えなければなりません。過去に党が約束した30gのチョコレート配給が不可能になれば、当時の公約を20gに改変してつじつまを合わせる、といった具合です。私たちの現実世界でもつい最近似たようなニュースがあったのは、記憶に新しいところです。

また、主人公ウィンストンが働いていた部署の名前は「真理省記録局( Ministry of Truth, Records Department )」。オーウェンが描き出した「真実、真理」ということばの危うさは、オックスフォード大学出版が発表した2016年の新語大賞「 post-truth (ポスト真実)」という言葉を思い出させます。

客観的な事実は二の次になり、感情が突っ走るように世論が形成されていく現在を見ていると、真理省ができる日もそう遠くないような気がしてしまいます。

「 2 + 2 = 5 」

小説『 1984年』の舞台では、客観的な事実は存在しません。独裁政党イングソックの言うことがすべてなのです。その絶対党首ビッグ・ブラザーが「 2 + 2 = 5 」と言えば、超大国「オセアニア」では「 2 + 2 = 4 」は間違いになります。 正確に言えば、「 2 + 2 = 5 」でもあるし「 2 + 2 = 4 」でもある、と矛盾する複数の概念を受け入れられるよう柔軟に「二重思考」する必要があります。

それに疑いを持つようであれば、「 joycamp (歓喜収容所)」と呼ばれる強制収容所へ連れていかれたり、「 Ministry of Love (愛情省)」と呼ばれる秘密警察に連行されたりしてしまいます。

全体主義の恐ろしさはここにあります。ナチス、ファシズムに代表されるような全体主義の社会では、あらゆる権力が1つの党や1人のリーダーに掌握され、社会全体が徹底的に支配・管理されます。個々人の考えが存在することは許されず、社会全体が党のイデオロギーに従う形で1つの方向へ突き進んでいくのです。言うまでもなく、民主主義の反対概念です。

検閲に制限されることなく市民やマスコミへの情報発信を続けようとする最近の科学者の運動は、危機感の高まりを如実に物語っています。

私たちが自由で論理的に考えるためには、できるかぎり客観的なデータを知ることが欠かせません。そして、私たち一人ひとりがそのための努力を惜しむべきではないと思うのです。

【追記】

「二重思考」については、らくださんの『【ネタバレ】小説『1984年』のあらすじと二重思考の考察』をご覧ください。とても丁寧な分析を読むことができます。

小説『 1984年』と一緒におすすめする本や映画

ジョージ・オーウェルの小説『 1984年』のほかにも、恐ろしい全体主義のディストピアを描いた示唆に富む小説や映画はたくさんあります。

以下、実際に私が読んだり観たりした作品の中から、『 1984年』に興味がある方にお勧めの作品を一部ご紹介します。

マイケル・ラドフォードの映画『 1984 』

ジョージ・オーウェルの小説をもとに作られた映画。公開は1984年。監督はマイケル・ラドフォード、主演は先日亡くなったジョン・ハート。そのほか、リチャード・バートンも出演している名作です。

原作にかなり忠実な映画で、全体主義の恐怖が息苦しいほどに感じられます。観終わったあとは本当にやりきれない思いになるので、それが観る意義でもあるのですが、気分が滅入っているときや心理的に弱っているときには観ない方がいいかもしれません。

映画も小説同様に、現在人気が再燃しています。


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フランツ・カフカの小説『審判(Der Prozess )』

オーウェルの前にも、恐ろしい全体主義社会を描いた作家がいます。『変身』で有名なフランツ・カフカです。

カフカは、全体主義のディストピアが無限に広がる長編小説『審判(Der Prozess )』を1914から1915年にかけて執筆し(1925年出版)、20世紀初頭の官僚制を全体主義の権化として描き出しました。

カフカの『審判』の中では、恐ろしい官僚制を構成している個々の役人は悪人ではありません。役人たちは、「自分はただ命令に従っているだけだ」と言いながら職務を果たしているただの平凡な一般市民なのです。

ハンナ・アーレントの「悪の陳腐さ」という言葉が頭をよぎります。アーレントの記録では、戦時中に極悪非道な行いをしたナチスの中佐は、ただ命令に従っていただけのどこにでもいる普通の人間でした。

自ら考えることをやめて全体主義の巧みな罠に捕らえられてしまったとき、私たちの誰もが人間性を失うような行動をとりうるのです。


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オーソン・ウェルズの『 The Trial 』

長いカフカを読むのはちょっとツライ……という方には、オーソン・ウェルズ監督、アンソニー・パーキンス主演のモノクロ映画『審判( The Trial ) 』(1962)がお勧め。さすがオーソン・ウェルズの重厚な名作です。


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テリー・ギリアムの『未来都市ブラジル』

モンティ・パイソンでおなじみのテリー・ギリアムが監督。ジョナサン・プライス主演。ロバート・デ・ニーロや、同じくモンティ・パイソンのマイケル・パリンも出演しています。文句なしの名作。

皮肉に満ちたユーモアが散りばめられ、上記の2つの映画に比べると重さ控えめで観やすい映画です。カフカに通じる全体主義的な官僚制のディストピアが見事に描かれている怖い作品です。


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私たちは、今、大きな変局の時を迎えているように思います。経済の停滞、ポピュリズム政治の躍進、民主主義の後退……など、小さな子供をもつ母親として未来を憂えずにはいられません。

  • 自分を含めた人間は脆く弱く、大きな力の前では簡単に判断を誤りうる存在であること
  • 小説にあるような恐ろしい事態は過去に実際起こり、これからも起こりうること

こうした事実をしっかりと認識するのは、子供たちに平和な世界で人間らしく生きてほしいと願う親として最低限の責任ではないでしょうか。人間の歴史から見れば稀有と言える平和な時代に生きてきたわたしたちだからこそ、一層忘れてはならないことだと思うのです。

ジョージ・オーウェルの『 1984年』は、そうした認識を持つきっかけにもなる示唆に富んだ必読の書。まだ読んでいない方はこの機会に、過去に読んだ方ももう一度手に取ってみることをお勧めします。

和訳表記について

この記事では、高橋和久訳『一九八四年』(早川書房、2009年)を参考にして固有名詞などの和訳表記をしています。小説のタイトルについては、一般的により普及しているアラビア数字表記の『1984年』を採用しています。

 

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