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全体主義に背筋が凍るおすすめのドキュメンタリー映画『 Tokyo, cataclysmes et renaissances 』

ここのところホームシックも手伝って日本映画を観あさる中、「興味深い」ということばではくくれないほど心を揺さぶられる映画に出会いました。

東京についてのドキュメンタリー映画『 Tokyo, cataclysms et renaissances (東京―動乱と再生*)』です。録画しておいたものをやっと見ることができました。

このドキュメンタリー、過去150年にわたる東京の変遷を追ったもの。ツイートにリンクしている仏紙『ル・モンド』でも紹介されているように、歴史的・文化的な価値のある濃い内容となっています。

何だか先の大戦前と似たような動きを感じる最近の流れの中で、ぜひ観ていただきたい映画。ちょっと真面目にご紹介したいと思います。

*仏版のタイトルに付した訳はぱんたによるもの。

もとはNHKスペシャルのドキュメンタリー

映画『 Tokyo, cataclysmes et renaissances (東京―動乱と再生)』は、フランスのJulien Olivier監督による90分のドキュメンタリー。プレミアは2016年パリ。ベルギーやフランスのTVでは2017年5月20日(土)にArteというチャンネルで放映されました。

制作には「 NHK 」の名が連なり、「 Shinji Iwata 」氏の作品がもとになっているとクレジットにありました。そこで調べてみると、原作となっていたのは、

監督: 岩田真治

NHKスペシャル『カラーでよみがえる東京―不死鳥都市の100年―』

日本では2014年10月にNHK総合で放送されていたものでした。

フランス語版とドイツ語版はarte の公式ページからオンラインで視聴することができます(2017年5月24日現在)。岩井監督の原作である日本語版はDVDが販売されています。

追記(2017年5月25日)
情緒豊かなブログを書かれているsorayoriさん( sorayori.com )からの情報によると、日本ではNHKで再放送が何度かされているとのこと。これからもたくさん再放送されてほしいと思います!

20世紀に2度も焼け野原になった東京

Olivier監督版のドキュメンタリーは7つの章に分かれ、江戸の終わりから現代までの東京を歴史に沿って記録しています。

  • 1868-1923 江戸 東京 Edo-Tokyo 
  • 1923年 関東大震災 Le séisme du Kanto
  • 1928-1937 光と影 L’essor et l’impasse
  • 1937-1945 戦争 La guerre
  • 1945-1952開国ふたたび Les Américains
  • 1955-1990 飛躍 L’envol
  • 新たな試練 Une ère nouvelle

関東大震災と東京大空襲によって20世紀に2度も焦土と化した東京が、信じられないようなめざましい復興と発展を遂げている姿が描かれています。

衝撃的なカラー映像の「昔」

この映画の何がすごいかというと、

  • 世界中からものすごい量の当時の映像(プロ・アマの撮影した500時間超の映像)を集めていること
  • それを最新技術と綿密な時代考証をもとに復元してカラー化していること

です。

私たちになじみのあるカラー化された滑らかな動画を通して見る「昔」は、もはや今とはかけ離れた過去の時ではなく、今とたいして変わらない最近のできごととして眼前に広がります。

百聞は一見に如かず。英語版のトレイラーがあったので貼っておきます。

教科書に載っているような白黒写真を見ていると、近現代であっても歴史的な事件って「大昔」のイメージがありませんか?それが、見慣れたカラー映像で同じ風景を見るとびっくりするほど今の自分たちの生活に近い風景になります。

関東大震災も学徒出陣も大昔のできごとではなくて、怖いくらい現代から隔たりのない「つい最近」に起きたこと。とてつもない臨場感があって、自分がとんでもなくラッキーなめぐり合わせで平和な生活を享受しているのだと、改めて気づかされます。

戦争は平和な日常の裏で始まっているという恐怖

映画の中でとても怖かったのが、大震災からの復興を遂げた近代都市東京の姿

バスや自動車の登場、神宮スタジアムで野球観戦をするためにならぶ長蛇の列、東京オリンピックの招致、銀座を闊歩する華やかなモガ……

きらびやかな近代化の一方で当時の日本では軍国主義が進んでいきます(上記トレイラーでは、1分05秒~1分45秒のあたり)。1933年には国連を脱退して世界から孤立。言論や思想の自由を奪う全体主義国家の顔とは裏腹に、フィルムに記録されている人々の顔は何とものどか。若者は宝塚に興じ(させられ)、銀座にはネオンが光り続けています。そして、親たちが微笑ましく見守る幼い子どもたちのお遊戯テーマは、南京攻撃……

全体主義にどっぷりと漬かった戦争前夜でありながら、きらきらと華やかな近代都市で平和に暮らす人々の姿は、身震いするほど怖いものがあります。

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出陣壮行会とスポーツの祭典

戦争中とは思えないほど「平和」だった人々の顔に不安が見え始めるのは、学生たちが出兵するようになってから。1943年に神宮外苑競技場で開かれた出陣学徒壮行会の映像には戦場に送られていく大勢の若者の姿があり、胸がつぶれるような思いになります。

そして、その約20年後(1964年)には同じ場所(国立競技場)で東京オリンピックの開会式が開かれ、希望に溢れた若者たちが行進しています。

Bundesarchiv, Bild 183-C1012-0001-026 / Kohls, Ulrich (CC-BY-SA 3.0)

20年前にここを歩いた学生たちだって、死にゆくためでなく明日のために旅立っていきたかったに違いありません。わが子のことを思えばなおさら。本当にやり切れない気持ちでいっぱいになります。

まとめ

カラーになった映像を通して見えるのは、遠い昔のできごとに感じる「戦争」へ向かった日本は、私たちが生きている現代の日本とさして変わりない姿をしているということ。

私たちの生きる平和な日本は当たり前の環境ではなく、ほんの少し前の悲劇によって手に入れられたものであり、意識して守っていかないと私たちの手から簡単に奪われてしまうもろいものだということが本当によく分かります。

最後に、映画の中にあった印象的なことばを引用して自戒の訓としたいと思います。戦後、一部の人に戦争の責任を押し付けるような風潮を辛辣に批判した伊丹万作監督のことばです。

多くの人が今度の戦争でだまされていたという
いくらだますものがいても
だれ一人だまされるものがなかったとしたら
今度のような戦争は
成り立たなかったにちがいないのである
「だまされていた」といって
平気でいられる国民なら
おそらく今後も何度でもだまされるだろう
いや 現在でもすでに別のうそによって
だまされ始めているにちがいないのである

(映画『 Tokyo, cataclysms et renaissances 』内で抜粋・引用された伊丹万作『戦争責任者の問題』のことば。原著はパブリック・ドメインとなっているため、『戦争責任者の問題』(kindleデジタル版)から全文が無料で読めます。)

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