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ベルギーで消えた子供

ベルギーで有名な子どもが行方不明になり、話題となっています。

まずは、こちらの写真をごらんください。

ベルギーの砂糖3

ベルギーで有名な、昔からながらのお砂糖のパッケージです。ベルギー家庭のマストアイテムを包む黄色い紙の上には、大きな口を開けた子供が描かれ、おいしそうにクレープのおやつを食べています。

ところが、ある日、この子が突然消えました。

ベルギーの砂糖4

いません。

テーブルについていたはずの子供が、いなくなっています。イスもテーブルの上も同じなのに、子供の姿だけがなくなっています。

デザイン変更にしては薄気味悪いので、ちょっと調べてみると、背筋の凍るような背景が見えてきました。

この記事では、ベルギーの消えた子供にまつわる怖いお話を、みなさんとシェアしたいと思います。

 

子供が消えたお砂糖パッケージの謎

ベルギーの砂糖1

問題のお砂糖のパッケージ。ふだんは、メーカーや砂糖づくりのこだわりについて「ごくふつう」の表記があります。

一方、子供が消えたパッケージの裏には、デザイン変更の理由となったキャンペーンについての記載がありました。

ベルギーの砂糖5

この新デザインは、「チャイルド・フォーカス」という基金の創立20周年キャンペーンによるものでした。実際のキャンペーンは2018年3月17日から始まりますが*、それに先駆けて新パッケージが市場に出回り、わが家のキッチンにもやってきたという経緯になります。

パッケージには、こんな説明が書かれています。

En 20 ans, nous avons retrouvé plus de 20 000 enfants. Aidez les familles à garder espoir : partagez nos avis de disparition via Facebook.

Ensemble, retrouvons-les.

20年の間に、私たちチャイルド・フォーカスは2万人を超える子供たちを発見してきました。希望の灯が絶えぬよう、子供たちの家族を助けてください。チャイルド・フォーカスが公開している行方不明者の情報を、フェイスブックでシェアしてください。

一緒に、子供たちを見つけましょう。(和訳 by ぱんた)

 

「チャイルド・フォーカス」は、行方不明の子供を助けるための公益財団。創立20周年を迎え、子供の失踪という社会問題について改めて世論を喚起するキャンペーンを展開していました。

こうして、いつも満面の笑顔でクレープのおやつを食べていた子供は、ベルギーで失踪した子供たちと同じように、ある日パッケージから姿を消してしまったのです。

*参照ソース:La Libre.beのサイトに掲載されている記事『Mais où est passé l'enfant des paquets de cassonade?』(2018年3月7日掲載、2018年3月8日参照)

 

チャイルド・フォーカスの歴史

「チャイルド・フォーカス」はベルギーの公益財団の通称。財団の正式名称は、「La Fondation pour Enfants Disparus et Sexuellement Exploités 」となっていて、主に、

  • 失踪した子供
  • 性被害にあっている子供

のために活動しています。

1日24時間、年中無休で門戸を開き、子供が失踪したり、搾取されている子供を見つけたりした場合の緊急通報番号 116 000 (ベルギー国内)も設置されています。活動に賛同する企業も多く、ブリュッセル市内のバスや電車内には行方不明者のポスターがよく貼られています。

そして、チャイルド・フォーカスの歴史を調べてみると、過去にベルギーで起きた悲惨な事件が浮かび上がってきました。

 

ベルギーの連続誘拐殺人事件

その事件とは、ベルギーで1996年に発覚した連続誘拐殺人事件。少なくとも6人の少女が犠牲となった、胸がつぶれそうな惨い事件です。

この記事では事件の名前や詳しい内容を述べることは控えたく、詳細を知りたい方はブリタニカ百科事典の該当ページ(英語)や、ウィキペディアの該当ページ(日本語)などをご参照ください(リンクをクリックすると、当該事件の解説ページを読むことができます)。

この連続誘拐殺人事件はベルギー中を震撼させただけではありません。捜査関連資料の改ざん発覚や、事件の被害を拡大させた警察・司法・政府の対応に市民が怒り、ベルギーで第2次大戦後最大規模の抗議デモが発生しました。批判は国内にとどまらず、国連やヨーロッパ各国からも大きな注目と非難の集まる一大事件でした。

そして、事件発覚から2年後となる1998年。事件で娘を失った父親の一人が、行方不明の子供や性被害にあっている子供を救うために財団を作ります。当時のベルギー王国女王が初代名誉会長に就任したこの財団こそ、チャイルド・フォーカスにほかなりませんでした。

 

ベルギーの子供たち

1996年の事件は、ベルギーの人々に心に大きな傷をを残しました。その影響は、今日の生活にもあらわれています。

2018年現在、事件から20年以上が経ちますが、首都ブリュッセルでは、一人で出歩いている子供を見かけることがほとんどありません。他のヨーロッパの都市に比べても、圧倒的に子供の一人歩きを目にしません。小学校への登校も、お友だちの家に行くのも、どんなに近かろうが親や保護者が付き添います。

ベルギーの人と話すと、

  • 中学生未満の子供はつねに保護者(=大人)と一緒にいるのがデフォルト
  • 低学年以下の子供を一人にするなんて、もってのほか

という風潮がとても強くあるのを実感します。それは家の外に限らず、家の中でもです。

そんなお話も、ベルギー外出身のお友だちから聞いたことがあります。

 

六次の隔たり

チャイルド・フォーカスは、行方不明の子供を探すためにSNSで情報のシェアをしてください、とベルギーの人々に呼び掛けています。

ぱんた
日本人の私が発信しても……

と思っていたのですが、サイトで紹介されているビデオを見て、考えをあらためました。

ビデオは、「六次の隔たり」という仮説をもとに、失踪した子供とは全く関係のないと思われる人が、実際は何らかのつながりを持っていることを見せています。

6次の隔たり ろくじのへだたり  Six Degrees of Separation

世界中の人間は、「知り合いの知り合い」といった関係をたどっていくと、5人の仲介者を経て、6人目でつながるという考え。米国の社会心理学者スタンレー・ミルグラム(Stanley Milgram)が、米イェール(Yale)大学の教授だった1967年に行った「スモールワールド実験」が基になっている。

コトバンク掲載、『知恵蔵』による「6次の隔たり」の解説より抜粋(2018年3月18日参照)

下のビデオは、行方不明の子供とは知り合いでないペトラさんという女性のケースから見られるようになっています。

子供と自分の距離を遠いと感じているペトラさんは、

行方不明の子ども → その子供のお兄さん → そのお兄さんの姪 → その姪の過去の同僚 → その同僚の恋人→ その恋人の友だち→ ペトラさん

と、実際は5人の人を介してつながっていたことが分かります。

そのため、今読んでいただいているこのブログ記事でも、行方の分からない子供たちの情報をシェアしたいと思います。

以下のリンクから、チャイルド・フォーカスのサイトに行くことができます。トップページには、行方不明の子供たちの情報が載っています(2018年3月14日現在)。

チャイルド・フォーカスに掲載されている行方不明の子供たち

ことばも違えば国も違い、ナイーブな考えかもしれませんが、旅行や出張でベルギーに滞在中の日本の方が、どこかですれ違うとも限りませんから。

 

まとめ

お砂糖のパッケージから子供が消えたことをきっかけに、ベルギーで消えた子供たちのお話について綴りました。

ちょっと薄気味悪いデザイン変更の裏には、それとは比べものにならない恐ろしい理由が横たわっていました。

自分一人の力には大きな限界がありますが、人とつながることで、誰かのためにできることが増えるのではないかと強く思ったできごとでした。

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