寒さも和らぎ始める2月は、カーニバル(謝肉祭)のシーズン。イタリアなどでは仮装している子供をよく見かけるようになります。
カーニバルはもともとキリスト教のお祭りですが、現代のヨーロッパでは仮装やパレードなどでお祝いすることが多く、子供たちが楽しみにしているお祭りの1つです。
娘が通っていたベルギーの幼稚園では、カーニバル前の金曜日は「全員仮装して登園!」という連絡が早々にあり、私もぬかりなくお姫様コスチュームを調達しました。本人は今からウキウキ、親までなぜかソワソワしています。
カーニバルは楽しいお祭りですが、そのバックグラウンドには分厚い歴史がどーんとあります。また、和訳の「謝肉祭」という何やらおいしそうなネーミングも気になります。
ということで、カーニバルについてもうちょっと深く知って、より楽しもう!という記事です。
世界のカーニバル
カーニバルというと「どんちゃん騒ぎ!」といった陽気なお祭りのイメージがありますが、世界にはいろいろなカーニバルがあります。
派手なコスチュームとサンバが眩しいリオのカーニバル
妖艶な仮面が魅了するヴェネツィアのカーニバル
オレンジを投げまくるイヴレーアのカーニバル
現在は各地で多種多様なお祝いをしているカーニバルですが、もともとは宗教色の強いお祭りでした。
カーニバル(謝肉祭)とは?
広辞苑の「謝肉祭」の定義です。
しゃにくさい【謝肉祭】
( carnival )カトリックで、四旬節に先立ち3~8日間行われる祝祭。道化・滑稽・歓楽が許されて、種々の仮面劇などが催される。カーニバル。
(『広辞苑 第五版』より)
つまり、本来のカーニバルは、肉断ちなどをするキリスト教の節制期間(四旬節)に先立つお祭りなのです。
じゃあ四旬節は何なのか?というと、斎戒期と呼ばれる節制期間になります。この期間は飲食に限らず生活全般にわたって慎んだ行動をして心身を清め、イースター(キリストの復活祭)を迎える準備をします(例えば、カトリックの場合は、四旬節の間は教会の祭壇が花で飾られることはなく、オルガンの演奏もありません)。
カーニバルは、そんな四旬節の前に「いっぱい食べて楽しく遊んでおこう!」という趣旨のお祭りだったのです。
そして、カーニバルには、どんちゃん騒ぎで有名な古代ローマのお祭り「サトゥルナーリア」の風習が結びついたと言われています。サトゥルナーリアは農耕神サトゥルヌスを祀って豪華な宴会などを開き、仮装や贈り物をしたりする無礼講の賑やかなお祭りです。
こうした背景をもとにカーニバルは各地で発展していき、現在の形になりました。
謝肉祭は肉に感謝するのか?
まずはカーニバルの語源を見てみましょう。
英語のcarnivalも、フランス語のcarnavalも、イタリア語のcarnevaleも、ラテン語の carnem levare が語源です。直訳すると「肉を取り除く」という意味で、カーニバルの後に肉食を断つ期間(四旬節)が始まることにちなむと言われています。
そして、気になる和名の「謝肉祭」。ぱっと見で「お肉感謝デー!」みたいなイメージがありますが、実は違います。
誤った解釈1: 感謝の「謝」 ➡ お肉よ、ありがとう! ×
誤った解釈2: 謝罪の「謝」 ➡お肉よ、ごめんなさい! ×
正しい解釈: 辞謝の「謝」 ➡ お肉よ、さようなら! 〇
日本語の「謝肉祭」もよくよく見ればラテン語源に沿う訳語となっていて、「肉断ちの祭り(肉断ちに備える祭り)」という意味を持っています。
カーニバルの時期
カーニバルは毎年日にちが変わる「稼働祝日」と呼ばれるお休みです。
ちょっと複雑ですが、次のように決められています。
- カーニバルは、四旬節を基準にして決まる
- 四旬節は、復活祭(イースター)を基準にして決まる
- イースターは、月の満ち欠けも関係して決まる=日にちが毎年変わる
つまり、カーニバルの日付を知るにはイースターがいつかを調べ、そこからさかのぼって四旬節の期間を知る必要があります。
逆に考えると、2021年のカーニバルはこうして分かります。
- イースター: 春分の日(2021年3月20日)から最初に迎える満月(3月29日)の次の日曜日 ➡ 4月4日
- 四旬節:イースター(4月4日)前の46日間 ➡ 2月17日~4月3日。四旬節の初日は「灰の水曜日」と呼ばれる。
- カーニバル:四旬節初日の1日前(2月16日)から遡って1週間ほどの期間 ➡ 1月31日ごろ~2月16日。カーニバルの最終日は「懺悔の火曜日」と呼ばれる。
カーニバルを祝う期間は場所によって変わりますが、大いに盛り上がるのは最終日の「懺悔の火曜日」や、最終日3日前の日曜日「謝肉祭の日曜日」のところが多いです。
その一方で、現在のカーニバルは宗教から離れて民間のお祭りとなっているものが多く、四旬節に入ってもお祝いを続けているものも珍しくありません。
カーニバルの仮装衣装
何といっても、仮装はカーニバルに欠かせません。カトリックの影響が強いイタリアなどでは、つい最近までは仮装と言えばハロウィンよりもカーニバルの風物詩でした(現在は、どちらの機会も仮装のお祭りとして定着しつつあります)。
カーニバルのシーズンになると、子ども用のコスチュームがあちこちに並びます。
もともと仮装や仮面を身に着けることは、本当のアイデンティティを隠して違う人物になるという社会的な機能がありました。例えば、お祭りの日には「家の主人が家来になって、主人となった家来に仕える」といった一時的な身分の交換などが行われていました。それが現在の仮装の起源というわけです。
生きるというエッセンス
イタリア語には「 A Carnevale ogni scherzo vale (カーニバルは無礼講!)」ということわざがあるように、カーニバルのお祝い中は通りがかりの子供に泡のスプレーをかけられるなど、地域によってはいたずらをされることもあります。
本来カーニバルは義務や社会的な役割など普段の生活で負っているすべてから自由になり、今という瞬間を楽しむお祭りでした。言いかえれば「生きる」という生命のエネルギーに溢れるお祭りでした。
15世紀のルネッサンス最盛期を生きたロレンツォ・デ・メディチは、『バッカスの歌』という詩の中でフィレンツェのカーニバルを詠みました。
Quant’è bella giovinezza,
che si fugge tuttavia!
chi vuol esser lieto, sia:
di doman non c’è certezza.
( wikisource より1番を抜粋)
ロレンツォはその中で青春の美しさとはかなさを詠い、今という時間を生きること( carpe diem )を称えています。
過去や未来に心が囚われて、今という時間を生きることがなかなか難しい現代。「生」の真髄が凝縮されていたカーニバルは、今を生きる喜びを私たちに改めて考えさせてくれるお祭りでもあるのでしょうか。
最後に、ロレンツォの詩ととても似ている『ゴンドラの唄』(吉井勇作詞)をご紹介しておしまいにしたいと思います。
いのち短し 恋せよ乙女
あかき唇 あせぬ間に
熱き血潮の 冷えぬ間に
明日の月日は ないものを
(ウィキソースより1番を抜粋)
それでは、どうぞ楽しいカーニバルを!